需要の弾力性と限界収入について
需要の価格弾力性とは、ある財やサービスの消費の変化を、その価格の変化に関連づけた指標のこと。需要の価格弾力性 = 需要される量の変化率/ 価格の変化率となる。
このとき、財の価格とその販売者の収益の関係は
- 弾力性の絶対値が1より大きい(弾力的)な場合、価格の低下は収入の上昇をもたらす。
- その反対の(非弾力的な)場合、価格の上昇は収入の上昇をもたらす。
となる。
また、数量が少し動いた場合の収入の変化を限界収入という。
- もし弾力性が1より低いなら、収入は販売量の増加した時、減少する。(限界収入はマイナスになる)
弾力性と収益
需要の価格弾力性という指標は企業担当者にとっても収益を上げる上で非常に重要です。企業の製品・サービス開発は究極、弾力がない財を作ることにあるといえます。
価格設定の変更は最も簡単な収益増の方法ですが、弾力性に応じて対応を変える必要があります。価格上昇が収益を上げるのは弾力がない財の場合です。もし弾力がある財であればむしろ価格を下げたほうが収益が上がります。
需要の価格弾力性の意味についてはこちらをご参考ください。
弾力性の種類 | ||
---|---|---|
需要の価格弾力性の絶対値: | 名称: | 意味: |
$ 1< |\epsilon| $ | 弾力的 | 価格の変化が大きな需要の変化をもたらす |
$ 0< |\epsilon| < 1$ | 非弾力的 | 価格の変化はあまり変化をもたらさない |
例題1
ある駐車場が定期駐車券を販売している。混雑緩和のため、先年まで4000円の駐車券を今年4800円に値上げしたところ、販売数は12,800枚から11,520枚となった。この時、以下の問いに答えろ。 (1) 需要の価格弾力性は? (2) 駐車券は弾力的か?それとも非弾力的か? (3) 駐車券の売上の変化は?
解答
(1)需要の変化率=\frac{11,520−12,800}{11,520}×100=-11.11
価格の変化率=\frac{48-40}{48}x100=\frac{8}{48}x100=16.67
よって、需要の価格弾力性=\frac{-11.11}{16.67}=-0.67 となる。
もしくは、分母を変化前後の平均とし(孤弾力性を用いて)、それぞれ需要変化は\frac{11,520−12,800}{(11,520+12,800)÷2}×100=−10.53、価格変化は\frac{48-40}{(48+40)÷2}x100=18.18となり、需要の価格弾力性=\frac{−10.53}{18.18}=−.58でもよい。
(2)需要の価格弾力性の絶対値が1より小さいため、非弾力的。
(3)去年: 12,800枚 x 4000円= 51,200,000円
今年: 11,520枚 x 4800円= 55,296,000円
よって、55,296,000円-51,200,000円=4,096,000円の増収となる。
つまり、価格の変化に対して相対的に需要の変化は小さく、結果として値上げによって販売量は低下したが収益を増やすこととなった。
例題2
以下の問いに答えろ。 (1) 弾力性の絶対値が1.2の財について、もし価格が上がると、収益は増えるか?減るか? (2) レストランの売上を上げるため、マネージャーは商品価格の値上げを提案しています。この時、商品の価格弾力性はどのように仮定されているか?
解答
(1)減る。
(2)価格弾力性は1未満。
実際の応用例
非弾力性と値上げによる収益増
タバコを例にとりましょう。こちらの記事では以下のように紹介されています。
タバコの価格弾力性は、ほぼ0.3~0.4と考えられている。生活必需品ではないが、なかなかやめられないタバコは価格弾力性がかなり小さな商品ということで、タバコは値上げをしても売り上げは減らず、売上高が期待できる。実際、喫煙率が下がってきても、それを値上げ分が吸収し、たばこ税収はほとんど影響を受けていない。
Yahoo Japan ニュース 「これで打ち止めか? 加熱式タバコ、10月に値上げ」2022/8/26
価格弾力性(の絶対値)が「ほぼ0.3~0.4」ということは、1以下ですので、とても非弾力的な財であると言えます。この時、「価格の変化はあまり変化をもたらさない」ということが「タバコは値上げをしても売り上げは減らず、売上高が期待できる」として説明されています。その結果、喫煙人口は減っているが、価格を上昇させても喫煙者1人あたりの販売量はあまり変化しないため、結果として「喫煙率が下がってきても、それを値上げ分が吸収」ということになっています。
以下のグラフを見ても、確かに価格上昇が売上維持に貢献していることがわかりますね。
弾力性の低下による企業の値上げ戦略
最後にこちらのコロナ禍における企業の値上げ戦略を分析した記事を見てみましょう。
なお、ここで議論されている「販売価格判断DIの上昇」とは値上げ企業割合が増えていることを意味しています。
販売価格判断DI*の上昇はコロナ禍の影響による可能性が高い。具体的には、公衆衛生上の対策措置によるコストの上乗せ、国民の活動制限によって売り上げ数量を増やしにくくなったことによる価格の引き上げである。こうした要因は日銀が過去に指摘してきたものでもある。(中略)
日銀は2021年4月の展望レポートで「感染防止や混雑回避のための供給サイドでのコストの増加(検温・消毒の実施や座席数の削減等)」や「消費者の感染症への警戒感に起因する需要の価格弾力性の低下」が消費者物価の底堅さにつながっていると分析していた。
前者は公衆衛生上必要な措置が増えたことなど仕入価格判断DIでは測ることのできないコスト増があった可能性を示し、後者は数量ベースで売り上げを増やすことが困難(特売セールの減少など)であれば価格設定を強気化して収益を確保しようという企業の変化を示している。
*仕入価格判断DI:企業に主要原材料購入価格または主要商品の仕入価格についての判断を尋ね、「上昇」と回答した比率から「下落」と回答した比率を差し引いたもの
東洋経済オンライン 「企業は値上げに「強気ではない」という分析結果」2022/04/15
一段落目には「販売価格判断DI*の上昇」は「国民の活動制限によって売り上げ数量を増やしにくくなったことによる価格の引き上げ」に影響されていると記載されています。つまり、値上げ企業が増えた一因としては、コロナ禍では特売などの値下げによる販売数量の増加が期待できなくなったことがあるということです。
この値下げによって販売数量が増加しずらくなるというのは、需要の価格弾力性が低下したことを意味します。この点について、2段落目には「『消費者の感染症への警戒感に起因する需要の価格弾力性の低下』が消費者物価の底堅さにつながっている」として、需要の価格弾力性の低下を指摘してますね。
結果としてコロナ禍においては、売上を増やすためにセールを控え、「価格設定を強気化して収益を確保しよう」という行動に企業が出ているため、値上げ企業が増えたのだと、この記事では分析しています。
まとめ
需要の価格弾力性は、弾力的な場合には値下げをすることで利益を増やすことができ、逆に非弾力的な場合には値上げによって利益を増やすことができます。そのため、弾力性を把握することは、企業の値下げ、値上げ、収益確保の判断やその分析において重要であるのです。
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